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ナスダック市場への上場を目指す日本企業が利用可能なコーポレート・ガバナンスの免除規定について

米国証券取引委員会(以下「SEC」)及びナスダック証券取引所を含む証券取引所は、米国の証券取引所に上場する全ての米国企業に対して様々なコーポレート・ガバナンスの要件を課している。例えば、ナスダックに上場する会社には、一般的に、取締役会の過半数が独立取締役であること、監査委員会委員のSECの独立性要件も満たす独立取締役のみで構成される監査委員会を設置すること、2名以上の独立取締役のみで構成される報酬委員会を設置すること、及び取締役候補者は独立取締役又は指名委員会が選出又は推薦する者であることが義務付けられている。ただし、「外国民間発行体」として認められる会社は、これらの要件に対する様々な免除規定の適用を受けることができる。

外国民間発行体について

1934年証券取引所法に基づく規則3b-4では、「外国民間発行体」という用語は、一般的に、以下を除くあらゆる外国企業を含む。

発行済議決権証券の50%超を米国居住者が保有する外国企業で、かつ、(i)執行役員又は取締役の過半数が米国市民又は米国居住者であり、(ii)会社の資産の50%超が米国内に所在し、又は(iii)会社の事業が主として米国内で運営されている外国企業

ナスダック上場の「外国民間発行体」は、自主的に米国企業に求められる全ての上場要件に従うことができるが、ナスダックのコーポレート・ガバナンス要件に対する様々な免除規定を利用することが認められている。

原則として、外国民間発行体は、ナスダックのコーポレート・ガバナンス要件の代わりに、本国の要件に従うことができる。もっとも、外国民間発行体は、一定のコーポレート・ガバナンスの要件を満たす必要がある。

独立取締役

原則として、ナスダックに上場する米国企業は、取締役会を構成する取締役の過半数が独立取締役であることが必要である。ナスダックのコーポレート・ガバナンス要件では、独立取締役は、「当社の執行役員以外の者、従業員以外の者、又は当社の取締役会の見解において取締役の責任を遂行する上で独立した判断の行使を妨げるような関係を有する可能性がある者以外の者」と定義されている。

ナスダックのコーポレート・ガバナンス要件に従い、以下の者は独立しているとは考えられない。

  1. 現在会社に雇用されている取締役又は過去3年間に一度でも会社に雇用されたことのある取締役
  2. 独立性の判断に先立つ過去3年間のうち連続する12ヶ月間に、会社から12万ドルを超える報酬を受領した又は受領した家族がいる取締役(但し、この報酬には、(a)取締役会又は取締役会委員会の役職に対する報酬、(b)会社の従業員(執行役員を除く。)である家族に支払われる報酬、又は(c)税制適格退職年金制度に基づく給付若しくは非裁量的報酬は含まれない。)

このルールにおいて、「家族」とは、配偶者、父母、子供、兄弟姉妹、義理の父母、義理の息子及び義理の娘、義理の兄弟姉妹並びに同居人(家事使用人を除く。)を指す。

外国民間発行体は、(以下で詳述する監査委員会の目的で必要とされる場合を除き)この過半数の独立取締役の要件に代えて、本国の要件に従うことができる。日本の会社法(平成17年法律第86号)においては、独立取締役を選任する必要はない。もっとも、日本企業がナスダック及びSECの規則に従って独立取締役を選任することは、仮に当該独立取締役が取締役会の過半数でなくても、ナスダック上場企業として適切なコーポレート・ガバナンスを維持する観点で、市場及びナスダックから肯定的に受け止められるであろう。さらに、会社法に従い、日本企業が監査等委員会を選択する場合には、取締役会の過半数が「社外取締役」でなければならない。一般的に、社外取締役は、日本の法令に基づく類似の要件により、SEC及びナスダックの独立性基準を満たすことになる。

監査委員会

ナスダックの要件

原則として、ナスダックに上場する米国企業は、厳格な独立性基準を満たす少なくとも3人の委員からなる監査委員会を設置しなければならない。監査委員会の役割は、主に財務報告に係る内部統制や外部の独立した監査プロセスを含む、会社の財務報告に対する独立した監督機関として機能することである。

米国企業の監査委員会が通常担当する監督機能に関して、外国民間発行体は、米国型監査委員会を設置するか、又は、1934年証券取引所法10A-3条が定める要件に従って監査役会(若しくは類似の機関)又は監査役を設置することができる。歴史的に、日本企業は日本法に準拠した「監査役会」又は「監査等委員会」を利用できること、及び米国型監査委員会の要件が詳細であることから、日本企業が米国型監査委員会の設置を選択することは非常に稀であった。

一般的に、外国民間発行体は、以下の場合、監査役会(若しくは類似の機関)又は監査役のいずれかを選択することができる。

  1. 監査役会若しくは機関又は監査役が、そのような監査役会若しくは機関又は監査役を明示的に求める又は許可する本国の法令又は上場規則に従って設置され、選任されている場合 
  2. 監査役会若しくは機関又は監査役は、本国の法令上又は上場規則上の要件に従い、取締役会から分離されている、又は取締役会の構成員1名以上と取締役会の構成員ではない者1名以上で構成されている場合
  3. 監査役会若しくは機関又は監査役が会社の経営陣によって選任されておらず、会社の執行役員が監査役会若しくは機関又は監査役の構成員でない場合
  4. 本国の法令又は上場規則が、監査役会若しくは機関又は監査役と、外国民間発行体又はその経営陣との独立性に関する基準を定めている場合
  5. 監査役会若しくは機関又は監査役は、適用される本国の法令上又は上場規則上の要件、又は会社の定款等に従い、法令で認められる範囲において、監査報告書の作成若しくは発行又は会社のためのその他の監査、レビュー、又は証明業務を目的として選任された登録会計事務所の選任、維持及び業務の監督(法令で認められる範囲において、財務報告に関する経営陣と監査人との間の意見の相違の解決を含む。)に責任を負う場合

本国の法令で認められている範囲において、監査役会若しくは機関又は監査役は、会計、内部会計統制又は監査に関して会社が受けた苦情の受領、保管及び処理、並びに上場会社の従業員による疑わしい会計又は監査に関する懸念事項の秘密裏の匿名での提出に関する手続も定めなければならない。

さらに、法令で認められている範囲において、監査役会若しくは機関又は監査役は、その職務を遂行するために必要であると判断した場合には、独立したカウンセル及びその他のアドバイザーを起用する権限を持たなければならない。最後に、会社は、監査役会若しくは機関又は監査役が決定した以下の支払いのために必要な資金を提供しなければならない。監査報告書の作成若しくは発行又は会社のためのその他の監査業務を行う目的で選任された登録会計事務所に対する報酬、監査役会若しくは機関又は監査役が起用した独立したカウンセル及びその他のアドバイザーに対する報酬、及び監査役会若しくは機関又は監査役がその職務を遂行するために必要又は適切な通常の管理費。

日本法の適用

通常、監査役会と監査等委員会は、いずれも上記の米国法上の要件を満たす。会社法は、監査役会及び監査等委員会の設置及び選任に関する様々な要件を定めている。一般に、監査役会及び監査等委員会は、監査役会又は監査等委員会を設置する旨の定款を承認する株主総会の決議によって設置される。

監査役会は、3人以上の監査役で構成され、そのうち半数以上は社外監査役でなければならない。同様に、監査等委員会は、3人以上の取締役で構成され、その過半数は社外取締役でなければならない。監査役会を構成する監査役及び監査等委員会を構成する取締役は、株主総会の決議によって選任される。

日本企業は、監査役会や監査等委員会を設置せず、1名の監査役のみを選任することも可能であるが、日本法における監査役会や監査等委員会が利用可能であることを考慮すると、市場からの期待としては、そのような制度設計は、米国における上場会社として適切なコーポレート・ガバナンスとは考えられないであろう。さらに、日本の法令では、資本金5億円以上又は負債200億円以上と定義される「大会社」は、監査等委員会を設置しない場合は監査役会を設置しなければならない。実務的には、ナスダックに上場する企業は「大会社」に該当する可能性が高い。近年、ナスダックに上場している日本企業の大多数は、監査役会を設置するというコーポレート・ガバナンスを採用している。

会社法に基づき、監査役会及び監査等委員会は、取締役会とは別の機関として設置され、取締役会及び会計監査人を監督する機能を有している。例えば、監査役会は、以下の職務を行う。

  1. 監査報告の作成
  2. 常勤の監査役の選定及び解職
  3. 監査の方針、会社の業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項の決定

監査役は、監査役会の求めがあるときは、いつでもその職務の執行の状況を監査役会に報告しなければならない。決定

同様に、監査等委員会は、以下の職務を行う。

  1. 取締役の職務の執行の監査及び監査報告の作成
  2. 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定

監査役会又は監査等委員会は、特定の状況下で会計監査人を解任することができ、また、株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容を決定することができる。さらに、取締役は会計監査人の報酬を定める場合、監査役会又は監査等委員会の同意を得なければならない。

会計監査人は、その職務を行うに際して取締役の職務に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、これを監査役会又は監査等委員会に報告しなければならない。

監査役会を構成する監査役又は監査等委員会が選定した監査等委員は、その職務を行うため必要があるときは、会計監査人に対し、その監査に関する報告を求めることができる。

執行役員の報酬

原則として、ナスダックに上場している米国企業は、少なくとも2名の委員からなる報酬委員会を設置しなければならない。報酬委員会の役割は、主に執行役員の報酬を独立した立場で監督することである。したがって、各報酬委員会の委員は、ナスダックが定義する独立取締役でなければならない。さらに、ナスダックは報酬委員会の委員に対して追加の独立性テストを課している。報酬委員会の委員を務める取締役の独立性を判断する際、取締役会は、取締役が報酬委員会の委員の職務に関連して経営陣から独立した立場を保つ能力に影響を与えるような重要な会社との関係を有しているか否かの判断に特に関連するすべての要素を考慮しなければならず、そうした要素には、当該取締役の報酬(会社が当該取締役に支払ったコンサルティング料、顧問料又はその他の報酬を含む。)の源泉、及び当該取締役が会社、会社の子会社又は会社の子会社の関連会社に所属しているどうかが含まれる。

外国民間発行体は、この要件に代えて本国の慣行に従うことができる。会社法は、執行役員の報酬を決定するための要件を規定していない。しかし、実際には、現在ナスダックに上場している多くの日本企業では、執行役員及び取締役の報酬並びにその他の報酬関連事項の協議及び決定に、取締役会が全体として参加している。この仕組みは、執行役員の報酬に関するナスダックの要件に代わる本国の慣行として十分であろう。

取締役の指名

原則として、ナスダックに上場している米国企業の取締役候補者は、独立取締役のみが参加する投票において独立取締役の過半数を占める独立取締役、若しくは独立取締役のみで構成される指名委員会によって選任されるか、又は取締役会の選任に推薦されなければならない。

ナスダックは、独立取締役が指名を監督することで、有能な取締役候補者の選出に対する投資家の信頼が高まるだけでなく、規則で求められている独立候補者の選出についても信頼が高まると指摘している。このルールは、独立取締役がすべての指名を承認することを確保しながら、企業が適切な取締役会の体制を選択する柔軟性を提供し、リソースの負担を軽減することを目的としている。

外国民間発行体は、この要件の代わりに本国の慣行に従うことができる。会社法は、取締役は、株主総会の決議によって選任されると規定している。この仕組みは、取締役の指名に関するナスダックの要件に代わる本国の慣行として十分であろう。

開示要件

外国民間発行体は、上記のコーポレート・ガバナンスの要件に代えて本国の慣行に従うことができるが、ナスダックでは、これらの免除規定を利用する会社に対して、利用した免除規定とその会社がナスダックの要件に代えて使用している本国の慣行を開示することを求めている。例えば、ナスダックに新規株式公開又は米国初上場を行う外国民間発行体は、その登録において、その会社が従わない各要件を開示し、それらの要件の代わりにその会社が従う本国の慣行を説明しなければならない。さらに、ナスダックの上場規則に代えて本国の慣行に従う上場外国民間発行体は、SECに提出する年次報告書(Form 20-F)において、従わない各要件を開示し、それらの要件の代わりにその会社が従う本国の慣行について説明しなければならない。 さらに、独立した報酬委員会を設置するという要件に代わって、本国の慣行に従う外国民間発行体は、SECに提出する年次報告書(Form 20-F)において、そのような独立した委員会を設置しない理由を開示しなければならない。


上記の記事は概要に過ぎず、外国の民間発行者が利用できるすべての免除規定に関する議論を含むものではない。外国民間発行体に適用される免除規定は非常に詳細であり、会社の状況によって異なる。上記に関するご質問は、米国法に関するご質問はLoeb & Loeb LLPのJohn Stapleton弁護士(jstapleton@loeb.com)まで、日本法に関するご質問はアンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業の樋口航弁護士(wataru.higuchi@amt-law.com)までお問い合わせください。

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